2013年上半期ラノベ周辺総括

ライトノベルミステリの拡大

ファンタジア文庫田中)編集長:たとえば、ミステリや歴史もののようにライトノベルとの相性の悪い題材が得意で、これまでのファンタジア大賞ではどうしてもこぼれてしまった、そういう才能も広く世にだしていければと願っているんですが。

ドラゴンマガジン2012年1月号「きたるべきラノベ新世代を語る 冲方丁×田中香織×田中久美子座談会」より

 富士見ファンタジア文庫の編集長がドラゴンマガジンの座談会で「ライトノベルとミステリ・時代ものの食い合わせが悪い」と発言したとおり、ライトノベルミステリは困難な組み合わせだと思われていましたが、最近ではライトノベルレーベル内でのミステリ作品が揃ってきたように思います。
 ライトノベルレーベル内でのライトノベルミステリといえば、山形石雄六花の勇者』と遠藤浅蜊魔法少女育成計画』が二大巨頭といえるでしょう。
 『六花の勇者』は中世ファンタジーの世界観に、敵の仕掛けたトリックを見破る・逆にトリックを仕掛けて敵を倒す・味方の中に隠れた裏切り者を探すといったミステリ要素をミックスした作品で、山形石雄らしい意表を突いた展開が魅力のシリーズ。
 『魔法少女育成計画』はソーシャルゲームのプレイヤーが魔法少女となって熾烈な殺し合いを繰り広げていくデス・ゲームもの。1作目はそれぞれの得意な魔法を駆使する能力バトル・バトルロワイアルものの趣が強かったものの、『六花の勇者』同様人狼ゲーム(プレイヤーの言動などから推理して、村人(役)の中に潜伏した狼(役)を見つけ出すゲーム)的要素が加わった2作目の「restart」からミステリ要素が前面に押し出されてきました。
六花の勇者 (スーパーダッシュ文庫)魔法少女育成計画 (このライトノベルがすごい! 文庫)
 この他にも名探偵コナンの脚本家による『鳥籠姫と三つの謎』、ファンタジー+学園ミステリの『魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ』、スクールカーストもの学園ミステリの『エーコと【トオル】と部活の時間』、「倒叙ミステリをラノベでやってみた」というコンセプトの『もえぶたに告ぐ』、ソーシャルメディアと自我の関連性を取り上げた『鳥葬 まだ人間じゃない』なども登場しました。
鳥葬 -まだ人間じゃない- (ガガガ文庫)エーコと【トオル】と部活の時間。 (電撃文庫)
そしてなにより今年のダークホースは、刊行されるや否や凄まじい賛否両論を呼んだ今年最大の問題作『せんせいは何故女子中学生にちんちんをぶち込み続けるのか?インテリぶる推理少女とハメたい先生』。新本格ミステリへのオマージュを組み込みながら、ラノベでは忌避されがちなレイプ問題にも踏み込んだインモラルなこの怪作はそれゆえに激しい罵倒と称賛を浴びましたが、圧倒的な個性という点では今年デビューのラノベ作家の中でも間違いなく抜群でしょう。
インテリぶる推理少女とハメたいせんせい In terrible silly show, Jawed at hermitlike SENSEI (HJ文庫)
 一方、ラノベ周辺に目を向けると、森川智喜のファンタジーミステリ『スノーホワイト 名探偵三途川理と少女の鏡は千の目を持つ』と著者初のソフトカバーラノベミステリ『一つ屋根の下の探偵』、成田良悟初の一般文芸作のハードボイルド・サスペンス『オツベルと笑う水曜日』などが登場しました。
 また、ラノベミステリブームの一角を担った『ビブリア古書堂の事件手帖』はドラマ化されましたが、主演に栞子さんのイメージとは反する剛力彩芽を起用し、設定を大幅改変したことがファンの間では賛否を巻き起こしました。
一つ屋根の下の探偵たちオツベルと笑う水曜日 (メディアワークス文庫)


一般文庫とラノベの間で
 集英社文庫やハヤカワ文庫、そして角川文庫がライトノベル作家の大量起用を始め、ライトノベルとの距離がより近づいた一般文庫。
  『ビブリア古書堂の事件手帖』を口火に広がる文庫書き下ろしミステリ・店ものミステリブーム。『ビブリア』の他にも『珈琲店タレーラン』『想い出のとき、修理します』『ホーンテッド・キャンパス』など文庫書き下ろしミステリが大量登場し、時代はまさに文庫ミステリ戦国時代。
 そうしたライトミステリ四天王のひとつ『珈琲店タレーランの事件簿』は4月に満を持しての続編を出版。この他にもこのミス文庫からはこのラノ作家も大量参加した『5分で読める! ひと駅ストーリー』なども登場しました。
5分で読める! ひと駅ストーリー 夏の記憶 東口編 (宝島社文庫)珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る (宝島社文庫)
 文庫ミステリの雄であるメディアワークス文庫からは、シリーズ初の長編となった『ビブリア4』を筆頭に、担当編集が三木一馬ということで話題を呼んだ『オーダーは探偵に』の続編、『悩み相談、ときどき、謎解き? 〜占い師 ミス・アンジェリカのいる街角〜』、成田良悟初のメディアワークス文庫作品にして『デュラララ!』のスピンオフである『オツベルと笑う水曜日』などが登場しました。
ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)オーダーは探偵に 砂糖とミルクとスプーン一杯の謎解きを (メディアワークス文庫)
 ライトノベルと一般文芸の狭間にある作品を担当する「角川キャラクター文芸部門」をいち早く立ち上げた角川文庫からは、『ビブリア』登場作品を集めた『栞子さんの本棚』(絶版だった『たんぽぽ娘』がワンコイン程度で読めることも一部で話題に)が登場。その他には、太田忠司の新作文庫書き下ろし『目白台サイドキック』、ウェブ小説からの拾い上げである「櫻子さん」シリーズなどが刊行されました。
櫻子さんの足下には死体が埋まっている (角川文庫)目白台サイドキック  女神の手は白い (角川文庫)
 こういったライトミステリの特徴としては大まかに、
探偵役・助手役のキャラクター性が重視されている
文庫書き下ろしの形式をとることが多い
イラストを前面に押し出した表紙(中には挿絵・口絵を入れる作品も)
が挙げられます。

 ライトミステリ文庫の次にくると言われているのがライトホラーと妖怪もの。
 ライトホラーは角川ホラー文庫の躍進の後を追うようにして、TO文庫、タソガレ文庫といったイラストを前面に押し出したライトノベル色の強いホラー小説を多く出す文庫レーベルが続々登場しています。
 この手の先達・角川ホラー文庫はものの見事にラノベ化しました。ホラー文庫大賞読者賞・小説すばる新人賞のW受賞で話題となった櫛木理宇の『ホーンテッド・キャンパス』は、ホラー要素を組み込んだ日常の謎ミステリ。表紙がどこからどう見てもラノベで、版元からもラノベ扱いされるという、『粘膜人間』『安藤三兄弟の聖職』を輩出したホラー文庫大賞ではかなりの異色作。また、『死相学探偵』シリーズも新装版が田倉トヲルによるラノベ風イラストで登場。この他にも『ラスト・メメント』などイラストを前面に押し出した作品が多数登場しました。
ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)十三の呪 死相学探偵1 (角川ホラー文庫)
今年創刊されたTO文庫は鏡貴也死霊のはらわた』(イラスト:田島昭宇)、倉阪鬼一郎殺人鬼教室 BAD』(イラスト:碧風羽)などイラストを前面に押し出したホラー小説をコンスタントに刊行しています。TO文庫にはよりイラスト性を強めたアニメイト限定版が存在しており、ライトノベルと一般文芸の狭間を意識している売り方をしています。
殺人鬼教室 BAD (TO文庫)
 TO文庫の後を追うようにして創刊されたタソガレ文庫(竹書房)もまた、イラスト性の高いホラーを刊行していくレーベルです。今後は牧野修黒史郎などのラノベ作家の参加も予定されています。
 また、忘れてはいけないのが角ホでの執筆経験もある黒史郎の『未完少女ラヴクラフト』。ラヴクラフト美少女化、という衝撃的な設定と表紙がラヴクラフト全集のパロディゆえがイロモノとして見られがちですが、クトゥルフものというよりはあらゆる幻想文学を題材にした重厚なダークファンタジーで、文学関連の衒学的なネタをぶち込みつつ、少年の成長を描く王道ジュブナイル小説として仕上げた文学マニア必読の一冊。
未完少女ラヴクラフト (スマッシュ文庫)

 文庫書き下ろし・シリーズもの重視というライトノベルとの共通点を持ちながらも「ラノベとの食い合わせが悪い」といわれる時代小説も、妖怪をモチーフとしたライトな作品が多く出版され、注目を集めています。
 角川文庫からは、平安時代を舞台に悪妖怪と戦う侍を描いた高橋由太の『ぽんぽこ』シリーズや佐々木裕一の『もののけ侍伝々』などのバトルものが続々刊行中。妖怪ものではありませんが、『妻は、くの一』もラノベ風イラストを使ったPOPが作られて書店に掲示されています。
おにぎり、ころりん ぽんぽこ もののけ陰陽師語り (角川文庫)京嵐寺平太郎  もののけ侍伝々 (角川文庫)
 新しく設立された「妖怪もの」専門レーベルの廣済堂モノノケ文庫は、本格ホラーのほかにも、朝松健『およもん』や岳真也ぼっこれ』など妖怪が主人公のものや妖怪との交流を描いた『しゃばけ』の系譜に連なる作品を出しています。
およもん-かごめかごめの神隠し- (廣済堂モノノケ文庫)ぼっこれ 大江戸妖かし草紙 (廣済堂モノノケ文庫)
 時代小説といっても、妖怪のいる日常を舞台とした気軽でゆるい人情ものコメディや、凶悪な妖怪・妖術使いとの対決を描いたアクション活劇のシリーズが多く、ライトノベルとの親和性を予感させます。「おっさんくさい」「書店で探しにくい」「シリーズものが多くて読み切れない」といった時代小説のマイナスイメージをどうやって覆していくかが今後の課題です。

四六判ならではのデザインを活かしたソフトカバーラノベ
 去年から単行本形式でのライトノベルがにわかに注目されてきています。書店でも、ボカロノベルやウェブ小説を中心にソフトカバー四六判のラノベを集めたコーナーが出来るようになり、去年刊行された長谷敏司BEATLESS』はダ・ヴィンチの上半期BOOKOFTHEYEARにランクインされるなど注目を集めており、ウェブ小説専門のソフトカバーレーベルや少女小説のソフトカバーレーベルもぽつぽつ立ち上がっている状況です。
 中には四六判という大きいサイズを活かして凝った装丁になった作品や挿絵が組み込まれた作品も存在し、イラストとのコラボレーションというライトノベルの持つ側面をじっくりと堪能できるのは実は文庫よりもソフトカバーラノベではないかとも思っています。
 今までミステリが主流だった作品傾向も、SFやファンタジー、アクション作品の増加で変化しつつあります。今年刊行された山野辺一記シグマニオン』は創芸社クリア文庫の管轄から出されたスペースオペラ系ソフトカバーラノベのシリーズで、挿絵が付けられています。 異世界ファンタジーはウェブ小説の書籍化に多く見られますが、それ以外の異世界ファンタジーとしては徳間出身の岡田剛による『十三番目の王子』などが存在します。
BEATLESSシグマニオン―超限の闘争〈1〉
 「本格ミステリベスト10・2011」の座談会では、ソフトカバー形式の単行本を「ノベルス感覚で読める」と評価する意見が登場しました。幻狼ファンタジアノベルス・トクマノベルスEDGEなどの廃刊により、ノベルス形式でのライトノベルが衰退しつつある今、そういったレーベルの読者・作品は今後ソフトカバーラノベか一般文庫にシフトしていくのかもしれません。実際、幻狼ファンタジアノベルス廃刊後の妹尾ゆふ子翼の帰る処』は新装版・続巻がソフトカバーラノベとして刊行されていますし、Cノベではイラストを省略した文庫版の刊行が開始されました。
翼の帰る処 (上)皇国の守護者1 - 反逆の戦場 (中公文庫)
  今年ひそかに注目しているのは、文芸が弱いとされる一迅社百合姫ノベルスです。「百合(女性同士の恋愛)」を取り扱う漫画雑誌・コミック百合姫掲載の小説を書籍化したソフトカバーラノベのレーベルなのですが、コミック百合姫独特のスタイリッシュな装丁を受け継いだ表紙デザイン(ビニール素材を表紙に使用するなど)・一般文芸作家を起用したチャレンジブルな内容など単なるソフトカバーラノベとは一線を画しています。三浦しをんのエッセイだとか深見真の表紙小説だとかまだ書籍化されていないコンテンツはありますので、今後はそれらの書籍化に期待しています。
あまいゆびさき (Yuri‐Hime Novel)

ウェブ小説の興隆
 さて、ライトノベル周辺を語る上で無視してはいけないのがウェブ小説でしょう。
 半分ライトノベルに片足を突っ込んでいる・MMOものと最強ものばかり・ソフトカバーでの販売という印象をもたれがちのウェブ小説ですが、今年になって新たな動きがみられるようになりました。
 ソフトカバー形態のウェブ小説では、『まおゆう』『ログ・ホライゾン』『ゲート』が有名ですが、今年の注目はなんといっても『ニンジャスレイヤー』でしょう。
 コテコテのサイバーパンク的世界観と勘違い日本観をミックスしたあまりにも異質な内容とtwitterでリアルタイムに進行していく発表形態は、従来のウェブ小説読者・ライトノベル読者のみならず海外小説ファンまで巻き込んだ話題となり、ミステリマガジンや本の雑誌など普段ウェブ小説を取り扱わない文芸誌にもこぞって取り上げられるほどでした。「MMO・最強・転生」というトレンドにも、「投稿サイト→書籍化」という流れにも乗らず、異様な作風だけで話題をかっさらった忍殺はウェブ小説の新しい動きを予感させました。
 さらにエンターブレインは、ウェブ小説にドラマCDやTシャツなどのおまけを付けた限定版を積極的に発売するなどの革新的な試みを行っています。
ニンジャスレイヤー ザイバツ強襲!【ドラマCD付特装版】
 もう一つの新しい動きは、書籍化の形態がソフトカバーから文庫へと移動していったことです。
 ソフトカバー→文庫という形態なら『レイン』や『ゲート』が存在しましたが、いきなり文庫で出して大ヒットした『ソードアート・オンライン』を契機に、電撃・スーパーダッシュこのラノなどのラノベレーベルが投稿サイトの上位作品の文庫化に乗り出すことやウェブ小説専門文庫レーベルの創設が盛んになりました。
 かつての「ウェブ小説書籍化」には値段の高い単行本として出すことでファンアイテムとしての意味合いも持っているとの考察がありましたが、手に取りやすい文庫レーベルからの刊行は書籍化作品から入る読者を急増させ、ファンアイテムとしての意味は以前よりも失われてきたように思います。
 今年GA文庫より鳴り物入りで登場したのは、投稿サイト「Arcadia」「小説家になろう」の上位作品『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』です。イラストを『デュラララ!!』『デビルサバイバー』で知られる人気イラストレーター・ヤスダスズヒトが担当し、発売前プロモーションも盛大に行われるほどの気合の入れっぷり。
主婦の友社から刊行されたウェブ小説専門レーベル・ヒーロー文庫はサイト上位作品を人気イラストレーターによる挿絵をつけて書籍化。基盤が強固なのもあって好調な売れ行きを記録しています。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)
 一方、悪名高いフェザー文庫の編集者が設立したソフトカバーラノベレーベル・フリーダムノベルは、やはりのっけから迷走を続けています。
 ウェブ小説ブームは一般文芸にも波及しています。
 昨年後半から角川書店が一般文芸でのウェブ小説書籍化に参入し、いくつかの作品をソフトカバーで出したことは記憶に新しいですが、「櫻子さん」シリーズをはじめとして今年は文庫形態での書籍化も行われました。また、双葉社幻冬舎・TOもソフトカバーラノベとしていくつかのウェブ小説を書籍化。
 未だウェブ小説外で突出した評価を得た作品が出てはいないのですが、もし一般文芸で高く評価されるような作品が出たならば、ウェブ小説は成熟期に達したといえましょう。

ボカロノベルの今後
 講談社星海社アスキーメディアワークス・MF文庫など大手ラノベレーベルが続々とボカロノベルに参入する半年となりました。
 大手の中でいち早くボカロノベルを出したMF文庫の『終焉ノ栞』は発売後即重版がかかり、今後第二弾として『ミカグラ学園組曲1 放課後ストライド』が刊行されていく予定となっています。
 ボカロノベルのおおまかなタイプを、3世代に分けてみました。
第一世代 スターシステム 歌詞世界の補完悪ノ娘』『千本桜
 比較的初期に出された『悪ノ娘』などPHP系ボカロノベルのほとんどは初音ミク鏡音リンなどのボーカロイドをベースにしたキャラクターが登場するスターシステムを採用しています。ミクベースなら「ネギが好き」「髪が緑」などの記号をベースにしてキャラが作成されているため、ボーカロイドに親しんだ読者にとっては分かりやすくなっているのが特徴です。
 また、小説内容も「歌詞世界の補完」という側面が強く、「あの歌詞の意味が分かる!」「あの楽曲の世界観が分かる!」ということがウリのひとつになっています。
悪ノ娘 黄のクロアテュールココロ―再会―
第二世代 スターシステムからの脱却カゲロウデイズ』『クワガタにチョップしたらタイムスリップした』『終焉ノ栞
 そんなスターシステムから脱却し、オリジナルの世界観を前面に押し出したのが第二世代です。カゲロウデイズ・終焉ノ栞はシリーズ楽曲と小説を組み合わせて読者自身が世界観を考察していく楽しさを提示しており、(どちらもループものであることも含めて)かつての『ひぐらしのなく頃に』に共通するところがあります。
 しかし、「歌詞世界の補完」という側面は未だ強く残っており、楽曲を聴いていないと理解の及ばない部分は多いです。
カゲロウデイズ -in a daze- (KCG文庫)終焉ノ栞 (MF文庫J)
第三世代 小説主導型 人気作家の参入仮想天使は魔術を詠う』『南極点のピアピア動画』『ヨハネスブルグの天使たち
 もっとも刊行数が少なく、あまりボカロノベルとは見做されないのが、この「歌詞世界の補完」から脱却した小説中心のボカロノベルです。第一・第二世代が小説より楽曲をメインとして考えていたのとは反対に、第三世代はあくまで小説がメインというスタンスをとっています。『仮想天使は魔術を詠う』はボカロノベルの古参・PHPから登場した能力バトルもの。「自社ボーカロイドを戦わせてはいけない」というクリプトンの制約を受けて、登場するボーカロイドは全てオリジナルキャラです。ボーカロイドが導く近未来を描いた『南極点のピアピア動画』や直木賞にノミネートされた『ヨハネスブルグの天使たち』が歌詞世界を描いた狭義のボカロノベルに入るかどうかは微妙なところですが、まあボカロがモチーフになっているし、初音ミクフェアで売られるくらいは関連していそうなのでここに入れておきました。
仮想天使は魔術を詠う南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)ヨハネスブルグの天使たち (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

 このように、現在主流となっているボカロノベルは「歌詞世界の補完」をメインとしたファンアイテム的な作品で、「一見さんお断り」感が感じられないこともないです。外見上は酷似しながらもボカロノベルの読者層とラノベの読者層は重ならない、と言われていますが、今後のボカロノベルはラノベ読者・一般書籍読者を取り込んでいけるかが焦点となりそうです。

ひそかに盛り上がる海外ラノベ
 ライトノベルといえば日本国内だけでのムーブメントといわれていましたが、最近では翻訳小説のラノベ化も急増してきました。
 翻訳小説のラノベ化という試みはライトノベルレーベルにおいては、Cノベやコーエーなどが行ってきたことですが、今熱いのは翻訳に強い出版社による海外ラノベです。
 ハヤカワ文庫では、モンスターと蒸気機関が交差するファンタジースチームパンクアレクシア女史」シリーズが、日本独自のイラストが宛がわれたことで人気を博しました。この他にも『鉄の魔道僧』『宵星の魔女エミリー』などライトノベル感覚の翻訳ファンタジーが登場しました。
アレクシア女史、倫敦で吸血鬼と戦う (英国パラソル奇譚)[rakuten:book:16311928:image][rakuten:book:16401135:image]
 また去年リブートした銀背では歴史改変スチームパンクの『リヴァイアサン』三部作が好評。こちらはもともとジュブナイル小説ということで、オリジナル挿絵が豊富に入っています。(表紙は日本人イラストレーターによる新規デザイン)
ゴリアテ ―ロリスと電磁兵器― (新ハヤカワ・SF・シリーズ)
 東京創元社はコージーミステリやファンタジーの一部の表紙で片山若子・ワカマツカオリなど人気イラストレーターを起用し始めました。
シャボン玉ピストル大騒動 (創元推理文庫)青玉は光り輝く (時間旅行者の系譜)
 未翻訳ですが、『Tokyo Demons | Sparkler Monthly』は日本のライトノベルの影響を受けたことを公言しているアメリカの小説。動画やイラストもアップされており、ネットでも楽しめるようになっています。

 ここまでは欧米圏のファンタジー・ミステリを中心に取り上げてきましたが、次はアジア圏に目を向けてみましょう。
 韓国には「シードノベル」といったラノベレーベルが存在しています。ハングル文字を除けば日本のライトノベルとあまり変わりない表紙デザインになっていますが、熾烈な受験競争が反映されている作品が多いのはお国柄?か。
 角川書店は中国・台湾のラノベ作家を対象とした「角川中国語ライトノベル&イラスト大賞」を立ち上げており、受賞作は日本でも翻訳されて刊行されています。
 また、スーパーダッシュ文庫は台湾人ラノベ作家である三木なずなの『チェリッシュ! 妹が俺を愛しているどころか年上になった』を4月に刊行しました。こちらは日本語で書き下ろされています。
チェリッシュ! 妹が俺を愛しているどころか年上になった (スーパーダッシュ文庫)
 とはいってもまだアジア圏の小説は英米小説に比べマイナーなのが現実。これからの盛り上がりに期待しましょう。
 
原作をなぞらないノベライズ
 今年のノベライズの台風の目は「完結作品の番外編」「原作脚本家による執筆」「フリーゲームレトロゲームのノベライズ」です。
 山田隆司による『おジャ魔女どれみ16』『おねがいマイメロディはいすく〜る』、講談社キャラ文庫より刊行されている平成仮面ライダーの小説など、すでに完結した子供向けアニメ・特撮の番外編を、マニア向けに新たに書き下ろすノベライズが続々と登場してきました。これらのノベライズは、原作の脚本家が直々に執筆しているのも特徴。
おジャ魔女どれみ17 ドラマCD付き限定版 (講談社キャラクターズA)おねがいマイメロディ はいすく~る (スマッシュ文庫)
 アニメと同時期に刊行された「K」のノベライズ2作は、アニメ脚本に参加している古橋秀之来楽零が書き下ろし、刊行当初しばらく入手困難な状態が続きました。
K SIDE:BLACK&WHITE (講談社BOX)
 アニメに連動して発売される星海社ダンガンロンパ』の新作ノベライズは星海社初登場の北山猛邦によるもので、本編より過去を描いた作品になる模様。
 そして、「青鬼」「ゆめにっき」のようにフリーゲームのノベライズも新たに登場しました。「青鬼」は講談社ノベルスでの執筆経験もある黒田研二が執筆、「ゆめにっき」は『ビスケット・フランケンシュタイン』『ささみさん@がんばらない』の日日日が執筆と、どちらも実力派作家が担当しています。「青鬼」「ゆめにっき」もかなり昔からある有名フリーゲームなのですが、今後さらにフリーゲームが小説化されていくということもありそうです。
ゆめにっき (FreeGameNovel)青鬼
 さらに、何故か突然現代風にアレンジされてノベライズされたレトロゲームいっき』も話題を呼びました。第二弾として『アトランチスの謎』が待ち構えており、『いっき』との関連性も匂わせています。
 『青鬼』『ゆめにっき』『いっき』いずれもストーリーをプレイヤーの想像力にゆだねるところが大きいゲーム。逆に言えばそれだけ執筆者のセンスが問われるということで、「原作のストーリーを忠実になぞるだけ」というありがちなノベライズからの脱却を果たすことはできるのでしょうか。

リバイバルラノベ
 貞本エヴァがついに完結したりFSSが連載再開した矢先に大量の設定変更をぶちかましたりして読者を困惑させるなどまさに空前のリブート・リバイバルブームが訪れていますが、ラノベもそのブームの真っただ中にいるといってよさそうです。 
 作者の度重なる問題発言などからMF文庫版が絶版になった『IS』がメディアファクトリーから分裂したオーバーラップ文庫から復刊しました。イラストは新たに「ゼノサーガEP2」のchokoが担当。今度はきちんと続けられるのか、ワンパターンだと批判されがちな最近の展開をどうするのかに注目が集まっています。
[rakuten:book:16257064:image]
また、角川文庫はライトノベル少女小説の人気作を一般文芸化することが多くなりました。『彩雲国物語』、『少年陰陽師』、『流血女神伝』、『GOSICK』についで今年は『今日からマ王!』と『神様のいない日曜日』が角川文庫化。『神さまのいない日曜日』は富士見ファンタジア文庫では久々となる一般文庫化です。
今日からマ王!     魔王誕生編 (角川文庫)神さまのいない日曜日  墓守の少女 (角川文庫)
 この他にも冲方丁蒼穹のファフナー』(電撃文庫ハヤカワ文庫JA)、高殿円カーリー』(ファミ通文庫講談社文庫)、村山早紀竜宮ホテル 迷い猫』(F-clan文庫→徳間文庫)、藤川圭介『宇宙皇子』、上遠野浩平しずるさんシリーズ」(富士ミス星海社)がリバイバルされました。
カーリー <2.二十一発の祝砲とプリンセスの休日> (講談社文庫)竜宮ホテル (徳間文庫)
 また、角川スニーカー・富士見ファンタジアの復刊プロジェクトも始動し、実写化決定したパトレイバーなどのノベライズ作品が復刊しました。
 そして、今年最大のシリーズ再開作品として『十二国記』と『星界の戦旗V』を挙げねばならないでしょう。
 『巫緒の鳥』は、yomyomに掲載され内容面で激しい賛否を巻き起こした短編2本に加え、書き下ろし短編が入った『華胥の幽夢』に次ぐ短編集。
 『星界の戦旗V』は一応の戦旗シリーズ完結となり、新展開が構想されている模様。
丕緒の鳥 (ひしょのとり)  十二国記 5 (新潮文庫)星界の戦旗V: 宿命の調べ (ハヤカワ文庫JA)
 シリーズ再開で忘れちゃいけないのは、藤本ひとみ少女小説凱旋。とはいっても、別の作家がリライトしていくという形式になりました。
夢美と銀の薔薇騎士団 序章 総帥レオンハルト (ビーズログ文庫)

 レッドドラゴン』VS『グランクレスト』
 星海社の『レッドドラゴン』は、成田良悟虚淵玄奈須きのこ三田誠紅玉いづきら人気ライトノベル作家にオリジナルTRPGで遊んでもらい(崎元仁のBGMつき)そのリプレイを書籍化するという前代未聞の企画で話題となりましたが、これに続く形でTRPGの古参である富士見書房メディアファクトリーのコラボレーションとして、両レーベルの人気作家が参加するTRPGリプレイ『グランクレスト』が開始され、星海社の『レッドドラゴン』と角川の『グランクレスト』の「TRPGリプレイ対決」が繰り広げられることになりました。
 『グランクレスト』は『レッドドラゴン』と違って富士見側のプレイヤーとMF側のプレイヤーの勢力争いという対戦ゲーム的要素が存在しており、リプレイとともにルールブックの発売も計画されています。
 両ゲームの大きな特徴としては、「リプレイを前提とした商品展開(ゲームルールよりリプレイを先に出す)」「ライトノベル作家の大量参加」などが挙げられ、ルール→リプレイという形をとり、ゲームデザイナーらがリプレイに参加することの多い従来のTRPGとは趣を異にします。
 ライトノベルに近い読み物として消費されている側面があるとはいえ、文体・内容の差異からライトノベルからは切り離して考えられることも多かったリプレイですが、人気作家の大量参加、さらには人狼ゲーム・脱出ゲームに代表されるアナログゲームブームで注目が集まっていくことが期待されます。
RPF レッドドラゴン 4 第四夜 夜会擾乱 (星海社FICTIONS)
 
分野の交差点で
 ボカロノベルにおいては、有名ボカロP自ら小説を執筆することが話題となりました。
 今年創刊されたNMG文庫は、戸梶圭太や仙田学など一般文芸や純文学分野からの「逆越境」作家を起用しています。また、星海社など周辺レーベルで作品を発表していた仁木英之GA文庫で本格逆越境の予定。
 百合姫ノベルスからはR-18文学賞受賞作家の宮木あや子がソフトカバーラノベを刊行しました。
 また、オーバーラップ文庫からはゲーム会社5pbの社長である志倉千代丸の新作が登場予定です。その他ゲーム分野からは『エンブレム・オブ・ガンダム』などでシナリオ構成力・文章力のなさを批判されながらも新作小説を続々書き続ける芝村祐吏、『まおゆう』『ログ・ホライゾン』の監修を行っている桝田省治らが活躍しています。
 そして、漫画家からは高遠るいが『ボイス坂』を文章・イラストともに書いて話題になりました。
  ライトノベルは、いろいろな分野の書き手が交わる空間になるのでしょうか。