魔法なき異世界戦記の劣等生(優等生) 花田一三六『戦塵外史 野を馳せる風のごとく』

戦塵外史 野を馳せる風のごとく (GA文庫)

戦塵外史 野を馳せる風のごとく (GA文庫)

ソフトバンク優勝セールで安くなっていたので購入。
初期のGA文庫を支えた戦記ラノベで、初出は角川スニーカー文庫
表紙からわかるとおり美少女よりオッサンが目立つ渋い作品で、それゆえにGAの他の作品と一緒に並ぶと圧倒的存在感があると話題だった。
わりと初期からあったシリーズではあったが、最終巻が2011年に出るなど結構長く続いた。
最終巻と他の同月発売のGA文庫を並べてみると、その存在感が実感できよう。
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一番右が最終巻です。

これに限らず初期GAはちょっとレトロな雰囲気のラノベが多く、ソノラマやノベルスからのリバイバルも豊富だった。『ゾアハンター』とか『ブラックマジック』とかな。
あとGAの看板作品だったポリフォニカ黒も、ノベルスの雰囲気を色濃く引き継いでいた。

実は「中世ヨーロッパ風戦記もの」「俺TUEEE」「旧作リバイバル」という現在の流行を先取りした作品だ。

パッと見はドラクエっぽい中世ヨーロッパ的な異世界戦記のようだが、魔法やモンスターの類が一切出てこなかったり(もしかしたら続刊で出てくるかもしれないけれど。)、一つの大陸を舞台に様々な人物の様々なエピソードが積み重なっていく形式になっていたりする。有名どころだと「ゲームオブスローンズ」の最初のほうに近いかも。

初出が古い作品で、「渋い!」「硬派!」「萌えがない!」みたいな感想をよく聞いていたが、硬派というか、逆にこれ俺TUEEEを大真面目にやった痛快娯楽小説だと思う。

亡国の世子ダリウスが国を滅ぼした張本人の帝国皇帝に拾われ、その帝国と敵対する国に滅亡させられた王国の王女と出会って国盗りするという戦記物の王道を行く内容だが、主人公側が非常に強い。
「圧倒的戦闘力」!「頭も切れる」!「実はやんごとなき身分」!というスリーカード揃って、何かするたびに部下や王女や帝国の皇帝や敵の将軍や後世の歴史書から「流石ですダリウス様」と褒められるダリウスをはじめとして、敵兵を無双のごとくなぎ倒していく彼の側近2名暗殺対象だったダリウスに一目惚れした元凄腕の殺し屋の妻圧倒的才能で帝国を統治する皇帝その皇帝に匹敵する剣の腕前を持つ亡国の王女と、ダリウスを頂点としてチート級のアベンジャーズ状態になっている。
まあ敵も「針をちょっと投げただけで分厚い本を貫通する」とかやりますけど、主人公側が強すぎてあんまり活躍できてない!

ただただダリウスが褒められる小説なのに、あまり嫌味がないのは、「主人公が最強でどこが悪い!」と最初から開き直っているところ(冒頭を読めば「この本は主人公の最強ぶりをお楽しみいただく小説です」というのが分かる)と、歴史小説の形式をとっているからかな。

「後世の作者が、現存する史料を元に歴史小説を書いた」という設定であり、主人公の強さが最終的に史料や作者の嗜好に依存していく歴史小説特有の現象(作者お気に入りの武将がやたら活躍するアレです。)を異世界ファンタジーに落とし込んでいるのが斬新だった。
「めちゃくちゃ強い主人公を書きたい!」という作者の意志と、現存する史料(闇に葬られた都合の悪い史料が存在することを暗に示している。)を参考にしたという設定が組み合わさって、主人公の絶対的なまでに圧倒的な強さに自然と納得がいってしまった。

渋い古い硬派と言われている作品で、こういうメタで冒険した構造が見られるとは思わなかった。
続刊も読んでみたい。