実質王子降臨 手代木正太郎『楽園追放 mission.0』

楽園追放 mission.0 (ガガガ文庫)

楽園追放 mission.0 (ガガガ文庫)

 ケツロボCGアニメこと「楽園追放」のノベライズ版。
 映画「楽園追放」の前後には、意識の高いバットマンを3本撮ったクリストファー・“意識高い”・ノーランの見るからに意識高そうな大ボリュームSF映画「インターステラー」や「ワールドウォーZ」並みの予告詐欺をやっていると話題のスーパーロボットヒーローバトルアクション「ベイマックス」といったSF映画の大作が並んでいて妙なシンクロニシティを感じる。スターウォーズEP7の予告編も公開されたし。

 映画ノベライズというと、原作をなぞって文章化しただけのどうにも微妙な印象を抱くやもしれないが、これに関してはノベライズというよりも、映画の前日譚にあたるスピンオフ。しかも作者が手代木正太郎と来れば……(いろいろな意味で)期待せずにはいられない。

 何故ならば、手代木正太郎はラノベ界において妖しすぎる光を放ちまくる超絶怪作『王子降臨』の作者なのだ! 「山田風太郎っぽい荒涼とした戦国時代で、天変地異や生物の進化を簡単に引き起こせるほどの強さを誇る西洋の王子が壮絶な戦いを繰り広げる」という本気なのか冗談なのかよく分からない内容、「分身を作る能力を持ったニンジャが密室で大量に分身を作って押し潰されて自滅」「何故かタコ型火星人が召喚される」「美しすぎる美のビーム」「大輪の薔薇になって爆発する人間爆弾」などの狂った展開、やたら押される男色シーン、ニンジャスレイヤーばりにテンションの高い文体、そして宇宙すら「美」で纏め上げる壮大な世界観から、『王子降臨』はラノベ奇書の一角として語り継がれている。
 そんな作者がノベライズを書くのだから、きっととんでもないことをやらかしてくれるに違いない。

 正直、前半部分はわりとまとも。人類が移住した電脳世界や、それを脅かすモンスター的存在であるワーム、電脳世界におけるステータスや通貨の役割を果たすメモリといった世界観の紹介に費やされていて、『王子降臨』のテンションの高い文体も封印されている。地上の荒廃によって人類が電脳世界に移住していて、作業のため地上に出るときは意識を活動用ロボにダウンロードするって……それグレッグ・イーガンじゃん!!と思ったが、まあそこは映画脚本の虚淵玄の趣味だろうか。

 作者の本領が発揮されるのは後半。世界観の紹介が終わると同時に、めちゃくちゃな展開が炸裂しまくる! アンジェラが大量に分割されるシーンはとんでもなさすぎて爆笑した。

 

アンジェラは何千何万何億何兆というミクロなアンジェラデータの集合体となってなんとか海水に溶け込むことを防ぐことができた。

アンジェラとアンジェラとは2アンジェラという形に圧縮され、アンジェラとアンジェラとアンジェラとは3アンジェラという形に圧縮される。その二つが圧縮され5アンジェラとなる。それが繰り返され、59976532104589アンジェラが誕生した。

なかにはメインアンジェラに判断と思考をゆだねるアンジェラたちもいたが、そういったアンジェラはやむなく切り捨てるしかない。59976532104589アンジェラは59976532104477アンジェラへと数を減らした。

 とにかく、アンジェラで遊びまくった感がものすごい! アンジェラがゲシュタルト崩壊してくる文章に加えて、大量のアンジェラの意見が対立したので民主主義で行動を決定するとかいうぶっ飛んだ描写もあったりしてこの辺は読んでいるだけでクラクラしてくる。
 その後も、電脳世界を荒らし、南国の楽園を電脳空間に再現しようとするワームの目的が「愛」にあったところはもう完全に『王子降臨 SF篇』じゃないか!!!

 私たちは愛アルゴリズムによって作成された愛プログラムです。愛のままに活動し、愛の実現のためにのみ行動します。愛の実現された世界、それが楽園〈ノア・ノア〉です。

 ――愛ゆえにです。私にプログラミングされた愛はこう語っています。愛とは不変であり、不滅であり、無限であり、永久であり、真実であり、絶対であり、不可侵であり、そして無敵である、と。

 愛で攻撃し、愛で騙し、愛で奪い、愛で殺し、愛で食らい尽くすのだと。それが愛。愛とは不変であり、不滅であり、無限であり、永久であり、真実であり、絶対であり、不可侵であり、そして無敵である。愛は絶対に負けない。愛は必ず勝利する。


 この、「愛」をプログラミングで記述しようとするくだりは、どことなく野崎まどの『パーフェクトチルドレン』や『know』、あとグレッグ・イーガンの『しあわせの理由』を彷彿とさせる。どことなく、だがな! やたらめったら愛が連発される文章は、『王子降臨』の王子の必殺技「愛の正拳突きラッシュ」をまず何よりも連想させられてしまう。

 荒唐無稽なだけではなく、「何故ワームはタヒチを模した電脳空間を作りたがるのか」という伏線がしっかり張ってあったり、アンジェラ分割・愛のアルゴリズム・ぽろっと出てくる電脳心理学とかいう面妖な学問といった要所要所のSF的アイデアとバカっぽさには目を見張るものがある。これはますます、手代木正太郎のバカSFをハヤカワで読みたくなってきたぜ。
 ちなみに今回は驚くべきことに男色要素はありません! 女のおっぱいならあるぞ! ケツはそんなになかった!
 作者特有の奇想がしっかりある一方で『王子降臨』で炸裂しまくっていた禍々しさがだいぶ薄まっているので、初めて手代木作品に触れる人にとってもおすすめできるかと思いますし、これが気に入った人は絶対に『王子降臨』を読むべきです。
 …………『王子降臨』の男色要素が好きだった人は、「楽園追放」本編のディンゴとかその辺にハァハァすべきなんじゃないかなあ……。

王子降臨 (ガガガ文庫)

王子降臨 (ガガガ文庫)